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VII 空気のきれいなまちづくり
国、都は

 1993年にまとめた測定の記録「きれいな空気を求めて」では、総量規制を現実のものに、 として同年の「自動車窒素酸化物削減法」を総量規制の無い後退したものと批判しました。 また「大気汚染を無くすには」と題して、総量規制のための提案として、車や道路の使い方の 工夫、低公害車の普及と軽油の増税、さらに車の流入を抑えるためにロードプライシング制度も紹介しました。

 公共交通を使いやすくする必要性も強調しました。
 それから8年が経ち、東京都では昨年「自動車使用と交通のあり方」として都が 取り組む三つの柱を策定しました。浮遊粒子状物質対策として「ディーゼルNO作戦」、 交通需要の調整を図る「TDM東京行動プラン」、そして「自動車使用に関する東京ルール」です。

ディーゼルNO作戦
 条例化による義務づけ
1)大型貨物車やバスなどへのディーゼル微粒子除去装置(DPF)の装着義務づけ
2)ガソリン車と同等の排出基準を満たさないディーゼル車の使用制限、代替義務づけ
3)より低公害な自動車の使用促進
4)自動車に関する環境情報の公開と説明の義務づけ

 制度改革の早期実現
5)軽油優遇税制の是正
6)軽油硫黄分規制の強化と新長期規制の前倒し実施
7)東京の走行実態と乖離した排出ガス試験方法の是正
8)車検制度の環境面での充実と黒煙規制の強化

 長期戦略の確立
9)燃料電池車やモーダルシフトをも展望した長期戦略の確立


TDM東京行動プラン
 既存道路容量を回復する
1)駐車マネジメントの推進
2)道路交通システムの高度情報化
3)自動車使用に関する東京ルールの展開

 自動車利用からの転換を促す
4)乗り換えの利便性の向上
5)自転車活用対策
6)パークandライドの検討

 自動車交通を抑制する
7)ロードプライシングの導入
8)企業保有車の自宅持ち帰り自粛
9)物流対策

自動車使用に関する東京ルール
1) 自動車の使用を減らす
2) 低公害な自動車を使用する
3) 環境に優しい運転などを行なう


以上の施策に沿って、東京都公害防止条例が2000年に「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」へ 全面改正し、基準を満たさないディーゼル車の走行を2003年10月から禁止することを決めました。 この東京都の動きにあわせ、国では「自動車窒素酸化物削減法」の見直しが計られています。


									東京都の施策は「環境白書2000」での現状認識や提案を生かしたものと評価できますが、
									上記「三つの柱」パンフレットには容量の拡大として「道路の整備」、
									「公共交通機関の整備・利便性の向上」が付け加えられています。
									この「道路の整備」が「自動車交通量の抑制」とか、「自動車の使用を減らす」という
									目標とどのような整合性を持つのか、根拠を明らかにすべきです。

中央環境審議会の答申
今後の自動車排出ガス総合対策のあり方
 二酸化窒素とSPMの汚染が厳しく、ディーゼル排気粒子DEPの発がん性の示唆を認めています。 そして今後の自動車排出ガス総合対策として、粒子状物質の規制を盛り込むこと、 車種規制にディーゼル乗用車を追加・排出基準値の強化、事業者の自動車利用管理計画の 策定義務づけ・罰則付き、などを上げています。
自動車排ガス公害を防止する 対策はあるのか
 自動車の排ガスのうち、二酸化窒素とディーゼルが出す黒煙 (特に直径が1万円札の厚さの1/40の極小微粒子)は人の 肺,気管、気管支の奥まで入り込んで、肺ガンや気管支喘息、花粉症などの病気の原因となったり、 悪化させたりします。自動車排ガスの害を防止する主なものには次のようなものがあります。

土壌脱硝装置
  植栽された微生物の存在する土壌に排ガスを通して浄化するもの。

フラットの道路に設置された場合
川崎市池上新田公園前(2階建7車線)道路沿道の一部に設置した50mのダク トに排ガスを吸引、90%浄化。しかし、一般に全交通量の排ガス吸引能力は20%。

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大阪第2阪奈道路の生駒トンネルでは、
トンネル内全排ガスの3%を吸引。90%以上浄化。しかし、トンネル内の排ガス 濃度は高いので、トンネル坑口だけでなく、トンネル内部にも脱硝装置をつけな いと排ガス除去率は低い。

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問題点は、土壌脱硝装置は排ガスを吸引した範囲の効果は高いが、浄化用の土壌を設置する広いスペースが必要。 都心の場合土地確保が困難。また、浄化用の土壌の機能が劣化する可能性なきにしもあらず。 実験期間が3年なので、耐用年数も不明。

沿道に植樹帯設置
  (植物に二酸化窒素を吸収させる方法)

練馬区小竹町36道路(区間600m)
道路幅16m,交通量約17,800台,大型車混入率9%。沿道に築堤か遮音壁を設置。車道から民家までは11m〜13m。 車道を合わせて全道路幅39〜41m。その間,車道、歩道3.5mを除いて、高木、中木、低木を混栽。 この結果、99年6月の11〜43mまでが0.018〜0.026ppm,歩道NO2濃度は車道路端から 対策のない所は道路端より17〜38mで0.043〜0.050ppm。

写真
樹木の背後に見えるのが遮音壁
(練馬区小竹町36道路緑樹帯)
問題点は、土地が必要。都心では購入する地代と住宅立ち退きが必要。

光触媒
  光触媒

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(東京都板橋区大和町交差点付近)

二酸化チタン(ビルや家等に使う白色塗料に80〜90%含有)を塗った壁などに光が当たると窒素酸化物が 水に溶けやすくなり、雨に流される。 具体的には、二酸化チタンをボードに塗布する方法などがある。 使用箇所は、トンネル出入り口の壁面、建物の壁面、高速道路の遮音壁、中央分離帯、歩道等。
問題点:途方もないスペ−スが必要。 二酸化チタンそのものは長期間使用しても変化しないが、 塗布したものがはがれ落ちる心配があり、作り直す必要がある。
結論:現在では、公害防止のよりましな手段として
★道路のトンネル化+土壌脱硝装置か、
★盛り土+シェルター+土壌脱硝装置+植樹帯
(地上トンネル)
等が考えられるが、さらに検討の要あり。


 現在の環境を守る抜本的技術対策は、今のところ見あたらない。 道路新設の目的には常に、渋滞解消や、街の活性化をうたうが、 その前に、既設道路や信号の改善、そして何よりも交通量の規制なしには、 現在の環境を守るどころか、道路新設の目的すらおぼつかない。(是枝)
amano
私たちの提案

 国や東京都が出した方針は、いわば当然のことと言えます。 本冊子では諸外国の例をいくつか挙げましたが、本質的な交通政策は日本には今までありませんでした。
 人や物が自由に移動する権利と、環境の悪化を招かない方法をどのように共存させるか、難しい問題です。 私たちも移動の手段を選択する責任があります。 環境に負荷を与えない移動手段を、そのコストまで含めて選択できる幅を広げることが必要です。
バスや自転車の利用者を増やす
 八王子市ではバス料金が、新宿までの京王線の料金より高い所がたくさんあります。 またバス路線や運行本数も十分ではなく、そのために市内の移動にマイカーを利用する方が大勢います。 その結果渋滞が起き、そしてバス離れも増えます。 自転車の利用は、自転車道が整備されればもっと増えると思います。 市内にLRT路面電車をという声もありますが、先ずコストの安いバス路線を張り巡らすことが先だと思います。 その場合、バスはもちろん低公害車です。 そして、乗車料金は現在のようにバス会社の独立採算ではなく、自治体が経費を負担することによって低く抑えます。 武蔵野市のムーバスなど市民バスがその一例と言えるでしょう。 渋滞解消のために道路を新設・拡幅したりする費用を、バス交通の推進など 公共交通や自転車道の整備に振り向けることは、ヨーロッパでは普通の事です。 八王子でもぜひ考えていくべきです。
16号バイパスの車線削減
 また八王子市内の幹線道路沿線の大気汚染を考えると、16号や16号バイパスを通る車両を これ以上増やさないようにしなければなりません。 そのためには16号バイパスの車線を減らし、通行車両を削減,車線を減らした分は緑地帯にします。

モーダルシフトの実現
 八王子を南北に通過するクルマは、圏央道の開通を待つのではなく、横浜線と八高線を利用して、鉄道で運びます。 英仏海峡やヨーロッパアルプスを越えるトンネルでは、車は鉄道に乗って運ばれます(ピギーバック方式)。 鉄道利用の方が省エネルギーで低公害です。 モーダルシフトは東京都の長期戦略としてあげられていますが、すぐにでも実現を図って欲しい施策です。
 道路建設の元締め、国土交通省でも「新しい道路構造に関する基準の検討」を始めています。 その中には、ハンプ(車道の隆起部)やシケイン(車道の屈曲部)を設けて車を走りにくくする道路も提案されています。
様々な工夫を
 また、都市部で歩行者を優先して自動車交通を削減するまちづくり(トランジットモール)や 通勤自動車を削減するための相乗り政策の推進、車の共同使用(カーシェアリング)で車の使用を減らす方法もあります。 アイドリングストップについては、バスや宅配トラックで実施されはじめました。 もっと広く行なわれるようPRが必要です。 また排ガス規制を確実なものとするために、毎年排ガス検査を行なうことも考えなければなりません。 二輪車の排ガス規制もして欲しいです。
まちづくりのこれから
 いまの八王子市は、郊外への住宅進出に従って増える交通需要に追いつかない道路整備に苦しんでいるといえます。 大規模な団地の建設は数年前に終わったとはいえ、現在でも郊外の開発指向は皆無とはいえません(川口丘陵など)。 今後は交通負荷の小さい土地利用を考えた、交通計画も含めたまちづくりが必要です。 そして道路の使い方を工夫する事で渋滞を解消、生活道路への車の侵入を抑制します。 これらの工夫は市民と共にします。 八王子市のノーマイカーデーは始ってから10年近く経ちます。 掛け声だけの精神運動に終わらせず、渋滞緩和、そして大気汚染防止のために、 実効性のある施策が望まれます。
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