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III 大気汚染をめぐる新しい動き
対策は進んでいるか
1992年
*「自動車NOx法」(自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法制定。
*八王子でノーマイカーデー始まる。
1993年
*東京都、2000年度までに、特定地域において二酸化窒素に係る環境基準をおおむね達成することを目標とする「東京都自動車排出窒素酸化物総量削減計画」(総量削減計画)を策定
*「NOx法」による初めての車種規制実施。これまで新車が対象であった排ガス規制が中古車も対象。
1994年
*川崎公害裁判判決で原告勝利。
1995年
*環境庁、ディーゼル排気微粒子やベンゼンなど測定開始。
*西淀川訴訟で道路公害裁判で初めて排ガスと健康被害の因果関係を認め、国と道路公団に賠償責任。
*国道43号線訴訟で、住民側勝訴確定。
1996年
*東京大気汚染公害裁判提訴
*兵庫県、全国に先駆けて、アイドリング禁止条例
*鎌倉市、車利用自粛宣言
*建設省、警視庁、三鷹、大阪、名古屋の三市をモデル地域に歩行者優先の道路設計を計画。
*「東京都浮遊粒子状物質削減計画」作成(〜2000年の5カ年計画)。
1997年
*八王子、高尾駅周辺でアイドリングストップ運動。
*東京都、交通需要マネジメントを取り入れた交通量抑制策に着手。
*神奈川中央交通、全国初の「環境定期券」を導入。
*中央環境審議会、2000年以降のガソリン・LPガス車の大幅な排ガス規制、答申まとめる
1998年
*川崎大気公害裁判(横浜地裁)原告勝利。
*全国交通事故遺族の会が自動車による公害の廃絶に関する政党アンケートを実施。
*自動車使用に関する東京ルール、第一回検討会
*西淀川公害訴訟、国と公団排ガス対策を約束して和解。
*環境庁、2002年をめどにしたディーゼル車のNOx・粒子状物質の削減方針まとめる。
*東京都、低公害車普及のため自動車税の軽減の方針決定。
1999年
*環境庁、車種による増減税を検討。
*東京都ディーゼル車NO作戦。
*建設省、東京都、鎌倉市、「ロードプライシング」を検討。
*自動車使用に関する「東京ルール」決定。
2000年
*尼崎公害訴訟神戸地裁判決、排ガスと健康被害の因果関係認め、国・公団に賠償責任。一定限度越す排ガス有害物質の排出差し止め命令。
*都公害防止条例改正で2003年度から6年でディーゼル車全面規制。(東京都環境確保条例12月制定)
*政府税制調査会会長、自動車関連税の一般財源化への見直しの必要性を強調。
*ディーゼル排ガス微粒子の発がん性を環境庁が認める
*名古屋南部大気汚染公害訴訟で差し止め判決。
排ガス差し止め判決で住民勝訴相次ぐ

 2000年1月、尼崎大気汚染公害訴訟で、自動車排ガス汚染を裁く 画期的な住民勝訴の判決が神戸地裁で出されました。
 これは国・阪神高速道路公団の加害責任を認め、幹線道路からの 大気汚染物質の排出を差し止め、約2億円の損害賠償を命ずるものです。
 この判決では、ディーゼル排ガスが生態へ悪影響を与えること、 アレルギー反応を促進する効果があることを指摘しました。 その因果関係の最大の根拠となったのが、本冊子の「大気汚染の健康影響」で 紹介している、千葉大医学部の調査です。
 また道路の公共性に対して、沿道住民の生命、健康を優先するという 今までに無い判断が示されました。
 この判決の背景としては1995年に出された、西淀川公害訴訟国道43号線訴訟での国の賠償責任を認めた判決、 さらに1998年の川崎公害訴訟でも国の責任が認められたことにあります。
 そして自動車公害・ディーゼル車対策を求める世論の高まり、 アメリカでの排気微粒子規制の実施、動物実験や疫学調査の進展、 などが追い風となったと考えられます。
 2000年11月27日には名古屋南部大気汚染公害訴訟の判決が名古屋地裁で出されました。 ここでは工場排煙と健康被害の因果関係を認めた他、国道23号の沿道に住む住民3人について 自動車排出ガスとの因果関係も認めました。 さらに国の道路沿道排ガス防止対策は不十分だとして、浮遊粒子状物質の一定濃度を 上回る排出差し止めを命じました。

 同じく2000年12月1日には、2000年1月に一審で勝訴した 尼崎大気汚染公害訴訟の控訴審で、和解する方向と発表されました。 これは国側に大型車の交通規制の必要性を認めさせ,大気汚染対策を約束させることと引き換えに、 損害賠償請求権を放棄するという内容です。長引く裁判ではなく、実質的な公害対策を引き出し、 沿道住民の健康被害を防止する道路行政への転換の始まりと住民側は期待しています。
 そして東京では1996年に道路設置・管理者の国・東京都・道路公団を被告とするほか、 自動車メーカーの責任も問う東京大気裁判が提訴されました。 東京の喘息患者・遺族など原告は約500人。東京に膨大な幹線道路の網目を作り、 自動車交通の増大を招いて深刻な大気汚染をもたらした道路行政の責任と、 技術はあるのに実際の生産販売では排ガス対策(特にディーゼル車対策)を怠ってきた 自動車メーカーの責任を追及してきました。現在は立証の最終段階に入り、2001年秋には結審、 来年中には判決が出る見通しです。
東京都環境白書は訴える

 1994年に施行された東京都環境基本条例に基づき、環境白書が毎年刊行されはじめて5年が経ちます。 2000年5月には環境白書2000が発表されました。 1999年8月からディーゼルNO作戦が始められ、この白書は自動車公害対策の特集号となっています。 都庁でも販売されている他、インターネットでも公開されています。 ここでは白書の特集部分「自動車と都市環境の危機」を紹介します。

ディーゼル車の増加と健康影響
 下の図のように,窒素酸化物の多くはディーゼル車から排出されています。 中でもバスやトラックからは窒素酸化物だけでなく浮遊粒子状物質SPMも多く排出されています。 20年前からディーゼルトラックが増え始め,現在ではトラックの6割はディーゼル車です。 そのためにガソリン車の排出ガス規制にも関わらず東京の大気汚染が改善されません。
 そしてディーゼル車が増えた原因として,ガソリンと軽油の価格の差が考えられます。 ヨーロッパでも燃費がよいこととCO2がすくないという理由でディーゼル車が増えています。 しかしアメリカでは軽油税がガソリンよりも高いのでそれほどディーゼル乗用車は増えていません。
排出量1
 このような増加傾向にあるディーゼル車に対し, 欧米各国の政府はディーゼル排出ガスによる健康と環境への影響を調査しています。 健康への影響については11〜12ページを参照してください。
排出量2


自動車公害対策の問題点
 ここでは30年前から行ってきた自動車公害対策にも関わらず大気環境が改善されていない理由を述べています。
 排出ガス規制の問題点として
1.粒子状物質規制の実施が遅れた
(環境基準を設けてから20年後の1993年に規制を開始)
2.欧米に比べて規制値が甘い(日本の規制値はヨーロッパの2.5倍,アメリカの2倍)
3.排出ガス試験法が非現実的
(実際の走行パターンと異なる試験法なので効果が出ない)
4.使用過程車の排出ガス検査がほとんど行われていないこと
(車検では窒素酸化物と粒子状物質の検査が行われないので,規制値が維持されない)
の4点を挙げ,排出ガス規制の抜本的強化を求めています。
 また区部に自動車交通が集中し,渋滞で汚染物質の排出係数が高いこと, 区部の交通量の95%は区部に用事がある車であるとし,都市機能が 高密度に集積しているのが原因としています。

自動車公害問題の解決に向けて
 ここでは東京都が昨年来取り組んでいる対策とともに,世界各地での取り組みを紹介しています。 まず自動車排出ガスの浄化をめざす試みは次の5点です。
1.軽油の低硫黄化(粒子状物質の削減,排出ガス浄化装置の機能発揮に有効)
2.排出ガス浄化装置の導入(ディーゼル微粒子除去装置DPFをバスやトラックに装着)
3.低公害車の導入(液化燃料LPG車,天然ガスCNG・LNG車の普及)
4.公共バスの率先行動(大型ディーゼル車で汚染物質を多量に排出する。低公害車化とDPFの装着を都バスに)
5.燃料電池車実用化(世界中で開発中。大気汚染と二酸化窒素排出削減に有効)
 この5点以外の自動車公害問題を根本的に解決する方法は車の使用を抑制することです。 「車依存社会からの転換」として,現状を過度の自動車依存が進行していると分析しました。 この50年間で自動車と鉄道の物流に占める割合が逆転し,1995年の自動車による物流は53.5%を占めています。 便利さに加え,経済効率の高さの結果ですが,この経済効率性の高さは環境負荷を考えていないとして, 物流の見直しを示唆しています。
 そして新たな交通政策を展開するために1990年代のイギリス,フランス,アメリカの都市交通政策の変化を紹介しています。(別項参照) 最後に大気汚染対策としては,排出ガスの規制強化だけでは足りない,交通需要マネジメントを 推進して交通量削減を計ることが必要であると結論づけました。
「交通需要の増大に,道路の整備だけで対応する時代は世界的に見ても終わりつつある」としていますが, この結論を国や都,八王子市がきちんと施策に取り入れることを期待します。

排出ガス比較
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