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V 交通政策、外国では
イギリス

 東京都の環境白書2000でも紹介されていますが、イギリスの画期的な 交通政策については運輸省が翻訳し、出版されています。
 1997年、英国労働党政府は総合的な交通政策を発表しました。 環境・交通・地域省が作った交通政策白書で「混雑と汚染を解決するために 総合的な交通システムをつくる」ため、「交通手段のサービスを改善して人々の 選択肢を増やす」とともに「道路の新設を控え、既存施設の保全、道路網の 管理運営システムを改善」するとしました。公共交通については 「バスを早く正確に運行する。マイカーの利用をほんの少し控え、その代わり 公共交通を利用してくれるような方策をとる」。

また交通改善のための資金は都市部の道路通行と勤務地の駐車場に課税する、と具体的な提案をしています。
 これらの政策は労働党の公約ですが、1996年の前政権下でまとめられたグリーンペーパーの中で 問題提起されたことに対する政策です。このようなイギリスの政策転換は、M25というロンドンの 外周道路が1986年の開通後に予測を超える交通量を担うことになったことが根拠になっています。 これを誘発交通と名づけ、道路を作ることで交通の増大に対応するのは不可能としました。
フランス

 フランスでは1997年9月にラ・ロッシェルという町で「車の無い日」という 社会実験が行なわれ、翌1998年にはパリ市など35市町村が参加しました。 現在「カーフリーデー」が世界各地で9月に行われます。 フランスの都市交通政策の基本は1982年の「国内交通に関わる方向づけの法律」に有り、 この中でそれまでの車重視を見直し、「人の交通権」をうたい、車に占拠された都市 空間を歩行者や自転車に配分し、公共交通の重要性を強調しました。

 1996年に策定された大気汚染防止法では、ナンバーによる規制、低公害車優先通行が導入されました。
 また1999年のモンブラントンネルの火災事故以来、トラック輸送から鉄道整備が重視されることになりました。
アメリカ

 1991年に「交通方式間陸上交通効率化」法を制定し、交通政策を転換しました。 これは交通計画の立案に住民参加機会を広げる、環境を重視、道路財源を公共交通や 環境整備に使えるようにしたものです。アメリカでは340前後ある都市圏計画機構NPOが 交通計画をつくります。 計画策定の情報は環境影響だけでなく、財源や事業費用についてまでインターネットで 論点として明らかにされます。

 ロスアンゼルスでは環境基準を満足するためにピーク時自動車交通量の30%削減を目指し、 通勤自動車削減条例が1987年に定められました。 企業毎に、乗用車に複数が同情して通勤する「相乗り」優遇策を行なっています。 成果についてはいろいろな見方が有りますが、便利さだけではなく環境悪化を防止する方向に 道路交通政策を転換せざるを得ない状況といえます。
ドイツ

 バーデン・ヴュルテンベルグ州の総合交通計画は1995年に策定され、交通インフラの効率的な利用、 公共交通への乗り換えなどがうたわれています。 また1990年から3年間、交通情報の提供・交通行動最適化をめざす大規模な交通実験が行なわれました。

 ミュンヘンでは現在実施している対策のほかに、自動車交通の抑制を図る計画、鉱油税の引き上げや ロードプライシングを含む計画を立て、それぞれの削減策による交通抑制対策をたて、効果を予測しています。
 公共交通の促進として。共通運賃の採用などを行い、運賃収入で賄えない経費は国や市の補助金で 補填しています。
ドイツのエコ切符

 東京では、2000年10月14日から首都圏内の私鉄の切符が一本化され、 JRのイオカードと合わせて二本立てとなりました。 この2枚のカードを持っていれば、電車に乗るたびにいちいち切符を 買う必要が無くなり、とても便利になりました。 しかし私たち利用者側から言えば、公共交通を利用したからと言って得した感じは無く、 やはり高い交通費の東京と言うイメージは変わりません。
 それでは、利用者のためのエコ切符にどんな仕組みがあり得るのか、 私が一時期住んだことのあるドイツのハンブルグの切符について説明してみます。
 地下鉄,郊外電車,バス,アルスター湖,エルベ川の定期船は,ハンブルグ交通局HVVが運営しています。 切符はこれらの全ての乗り物に通用します。 たとえば1時間以内,また一定方向なら,どの乗り物を使っても良いし,乗り換えても良いのが普通の切符です。 さらに1日定期Tageskarteという朝9時から翌朝4時半まで通用する大変便利な切符があります。 料金は距離によって,市の中心部の1ゾーン,周辺の2ゾーンに分かれています。

 その他に、往復切符と言うのが有りますが、これも片道だけ買うよりお得です。 またオペラやコンサートの前売りチケットには交通切符がついていて、 オペラのチケットを見せれば公共交通は利用できます。
 その他にも大人と子どもが一枚で使えるファミリー切符や、一週間分あるいは 一か月分乗り放題のお得なお買い物切符等が用意されていて、私は慣れないうちは切符売り場で どれが一番安いか良く考えたものです。
 この位利用者に優位性があると、車で移動するより、ゆっくり公共交通を使おうと 言う気になります。車で行って駐車場を探すことを考えると、家族みんなで出かけるのにも バスと電車にしようと思えます。
 今、八王子から都心へとても高い運賃がかかります。路線会社ごとに切符を買い換えるのにも一苦労で, もっともっと利用者の立場を考えた公共交通利用を促す工夫をする必要があると思います。(山内)
私が見てきたシンガポール

 マレーシアからシンガポールに入ると、街も車もピカピカになる。 車検のないマレーシアではとてつもなくなつかしい車が走っていたのだが、シンガポールは新しい車ばかりである。
 国土の狭いシンガポールでは車の台数を抑えるために様々な施策をとっている。 車を買うには10年間の新車通行券が必要である。これがなんと100万円以上なのだ。 普通は10年で廃車にするが、もっと乗りたいときはまた通行券を購入する。 また税、保険も高い。車を持つには1000万円近くかかる。高級車ならもっとである。 このため車を持てるのは一部の富裕層に限られる。 多くのシンガポーリアンは地下鉄やバス、タクシーなどの公共交通を利用している。
 車のフロントガラスの内側、ハンドルの右前にはプリペイドカードを差し込む機械の設置が義務付けられている。 ロードプライシングである。 市内の道路の上部に(スピード違反取り締まり機のような感じで)料金徴収のセンサーが設置されており、 この下を通る車は自動的に通行料を徴収される。 通勤時間などの混雑時に有料となるところもある。このため車は有料の区間や時間を避けて走っている。 ちなみに高速道路の料金もこのシステムで徴収されるため、バスやタクシーに乗っている旅行者は、 高速道路に入ったことに気がつかない。 それでも車の多い街だ。リッチな人がそれほど多いのか。

 ほとんどの道路は一方通行である。5車線もある大通りも同じ方向から車がドーッと来る。 そしてなんと横断歩道が極端に少ない。 確かガイドブックには「横断歩道以外で道路を横切ると罰金」と書いてあったのだが、横断歩道がない。 歩行者を見ていると、車がとぎれるのを見計らって走って横断している。 (私も何度も命懸けで渡った。)交差点には信号があるが車のためのものである。(市川)
シンガポール
 車がこの下を通過すると車内の装置に差し込んだプリペイドカードから自動的に通行量が徴収される(ロードプライシング)。 このカードは店での買い物にも使える
シンガポールは、いかにして車をスムーズに移動させるかに重点を置く車優先の政策を取っている。
									しかし車をもつ人に重い負担を負わせ、車の総量を規制しようとする国の姿勢には、学ぶべきものがある。
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